ボルト・ナット締結体の緩みの有限要素法解析〜ゆるみ止め部品への適用
ボルト・ナット締結体の緩みに起因する事故は21世紀を迎えた現代でも絶えることはありません。このような問題に対し、数多くのゆるみ止めナットや締め付け方法が提案されてきましたが、どれも問題を完全に解決するには至っていません。
当研究室では、有限要素法解析(幾何学的非線形接触解析)により、ボルトの緩みのメカニズムを解明することに近年成功しました。その結果、教科書に書かれているゆるみのメカニズムである“座面すべり”が起きる以前に、“微小座面すべり”と呼ばれる現象により、微小にゆるみが進行することを示しました。この現象は信州大学の賀勢先生らによって1988年に初めて実験的に示された現象です[下記関連論文参照]。
当研究室ではこの解析ツールを使って、ゆるみの理論的なメカニズム解明のみならず、既存のゆるみ止め対策の理論的な評価を試みています。我々の試みにより、今まで整理されていなかった様々なゆるみ止めの効果の体系化が可能であると考えています。
三次元有限要素法によるゆるみ解析技術の企業への技術移転も行っております。興味のある方は泉まで連絡ください。
本活動は、「マルチフィジックスの実験/計算技術の高度化に関する研究会」 とも連携しています。
当研究室での有限要素法での理論的性能評価 (細目・ピッチ数増加・塑性締めの資料はこちら)
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座金 |
フランジナット |
ダブルナット |
ばね座金 |
ナイロンナット |
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座面すべりに対する効果 |
× |
△ |
◎ |
△ |
△ |
○ |
△ |
△ |
○ |
微小座面すべりに対する効果 |
× |
○ |
◎ |
△ |
○ |
○ |
○ |
△ |
○ |
備考 |
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等価摩擦直径が少し大きい |
軸力低下により座面すべりが生じる(全くゆるまない) |
負の効果、安易に採用すべきでない。若干の軸力補償はある |
高温になると効果なし |
ゆるみの速度が遅くなる効果。進行を止めることはできない。 |
ピッチ数増加による剛性増加の効果 |
軸力補償の効果はあるが、ばね力によりゆるみ回転は促進 |
軸力のバラつき低減、ゆるみの観点からデメリットなし。 |
◎効果大 ○効果小 △変化無し ×効果マイナス
関連論文 (日本機械学会論文集は無料でダウンロード出来ます)
1、軸直角方向関連
・泉聡志,横山喬、岩崎篤、酒井信介、“ボルト締結体の締付けおよびゆるみ機構の三次元有限要素法解析” 日本機械学会論文集A編71-702 (2005) pp.204-212.
・泉聡志,木村成竹、酒井信介、“微小座面すべりに起因したボルト・ナット締結体の微小ゆるみ挙動に関する有限要素法解析” 日本機械学会論文集A編、72-717(2006)pp.780-786 .
2、各種ゆるみ止め部品
・木村成竹、泉聡志,酒井信介、“三次元有限要素法によるばね座金のゆるみ挙動解析”日本機械学会論文集A編, 73-734(2007) pp.1105-1110
・泉 聡志,木村成竹、酒井 信介、“三次元有限要素法解析による平座金およびフランジナットのゆるみ止め性能評価” 日本機械学会論文集A編, 72-721 (2006) 1292-1295..
・木村成竹、泉 聡志,酒井 信介、“三次元有限要素法によるダブルナットの締め付けおよびゆるみ挙動解析”日本機械学会論文集A編、72-719(2006) pp.967-973.
・Takashi YOKOYAMA, Kunio OISHI, Masatake KIMURA, Satoshi IZUMI, and Shinsuke SAKAI, “Evaluation of Loosening Resistance Performance of Conical Spring Washer by Three-dimensional Finite Element Analysis”, J. Solid Mech. and Mater. Eng., Vol. 2, No. 1, (2008), pp. 38-46.
3、軸方向関連
・泉聡志,武太地、木村成竹,酒井信介、“三次元有限要素法による軸方向外力作用下でのボルト・ナット締結体のゆるみ挙動解析”日本機械学会論文集A編、73-732 (2007) pp. 869-876.
4、軸周り外力関連
・Takashi Yokoyama, Mårten Olsson, Satoshi Izumi, Shinsuke Sakai, "Investigation into the Self-Loosening Behavior of Bolted Joint Subjected to Rotational Loading", Engineering Failure Analysis, 23, (2012) pp. 35-43.
5、ボルトの有限要素法モデリングに関する調査研究
・「ボルト締結の有限要素法モデリング手法の有効性評価」H19年度修士論文
・泉聡志、”ボルト・ナット締結体のCAEモデリング手法の確立と産学共同研究の事例紹介”,日本機械学会第20回機械材料・材料加工技術講演会(M&P2012)ワークショップ「締結・接合・接着部のCAEモデリング・解析・評価技術」 (2012)
6、ゆるみの解析的モデル
「軸直角方向外力を受けるボルト締結体挙動の力学モデルの構築」H21年度博士論文 PPT
・横山喬, 泉聡志, 酒井信介, “軸直角方向外力を受けるボルト締結体挙動の解析的モデルの構築(第1報: 荷重変位関係のモデル化)”, 日本機械学会論文集A編,
76-763(2010), pp. 351-360.
・横山喬, 泉聡志, 酒井信介, “軸直角方向外力を受けるボルト締結体挙動の解析的モデルの構築(第2報: 回転ゆるみのモデル化)”, 日本機械学会論文集A編,
76-765 (2010), pp. 637-644.
7、衝撃外力を受けるねじのゆるみ
「衝撃外力を受けるスイングサークル締結体ゆるみの陽解法有限要素法解析」H23年度修士論文
・神谷 翔太,泉 聡志,酒井 信介, 山田 良一, "衝撃外力を受ける油圧ショベルのスイングサークル締結体の陽解法有限要素法によるゆるみ解析", 日本機械学会論文集A編, 78-795 (2012), pp. 1593-1601.
8、アルミニウム被締結体のへたり
「ボルト座面の限界面圧設計のための有限要素法シミュレーション」H22年度卒業論文
・森住 竜雄,泉 聡志,酒井 信介,後澤 洋平,四谷 剛毅, "アルミニウム中空円筒被締結体のボルト座面塑性変形の有限要素法解析", 日本機械学会論文集A編, 78-795 (2012), pp. 1583-1592.
関連講演等
・ 2005年7月27日 自動車技術会、第2回疲労信頼性部門委員会、“有限要素法によるボルト・ナット締結体のゆるみ機構の解明とゆるみ止め部品の性能評価”
・ 2005年11月18日 ANSYS Conference 2005、“有限要素法によるボルト・ナット締結体のゆるみ機構の解明とゆるみ止め部品の性能評価”
・ 2008年7月16, 23日 岐阜大学工学系研究科特別講義”接触問題FEM解析の基礎と適用例”""
・ 2006年11月16日 ANSYS Conference 2006、“接触・摩擦解析による有限要素法によるボルト・ナット締結体のゆるみ機構の解明とゆるみ止め部品の性能評価”
・ 2008年12月16日 日本機械学会講習会、締結・接合部の設計の実際と今後の展開、” 有限要素法によるボルト・ナット締結体のゆるみ機構の解明とゆるみ止め部品の性能評価”
・ 2009年11月20日 ANSYS Conference 2009、“三次元接触・摩擦有限要素法解析による ねじ式テンショナの挙動解析”
・ 2012年6月13日 計算工学会「「シミュレーションの品質・信頼性にかかわる調査・研究」研究分科会」 ”ボルト締結体の有限要素法解析の産学共同研究の事例及びCAE 設計の実務教育に関する活動の紹介”
・ 2012年6月29日 アルテアカンファレンス2012 ” 衝撃外力を受ける油圧ショベルのスイングサークル締結体の陽解法有限要素法解析”
「締結・接合・接着部のCAE用モデリング及び評価技術の構築」 分科会関連ページ
2006年頃行われたねじのモデリングのWGの資料です。
リンク
l 酒井・泉研究室動画サイト(ゆるみのFEMの動画有)
問合せ先
東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻 泉 聡志
izumi atto
fml.t.u-tokyo.ac.jp